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 「そもそも何故お前は、奴を倒そうとする?」
 うだるような暑い日差しも陰に落ちたころのことだ。珍しいことに、男の方から話が始まった。
 彼はいつもの通り、キャットウォークで煙草をふかしながら、昼寝気味に作業を眺めている。深い深いひと吸いを造作臭く終え、ゆっくりと男に顔を向けた彼は、何事かを言いかけたまま沈黙した。
「どうした。コジマ汚染が脳まで達したのか」
「毎度のことだが酷い言い様だな」
 眉だけを動かす独特の笑顔で、彼は返す。
 静謐な夜の砂漠の向こうをモニタ越しに眺めつつ、男もまた煙草に火を灯した。肺までは込めずに口先でふかす、彼とは対照的な吸い方だ。
 元々、彼から聞いていた理由は全て嘘だろう、というのが男の見解だった。と、いうのも「断末魔が聞こえてくるようだ」と言う彼に妹はいない――正確にはあの戦いよりも前に彼岸へと旅立ってしまっていたし、両親はそれよりも更に前に他界している。友人らしい友人もおらず、ただ一人で漂うように生きていたのが、彼だ。
「私はむしろ、君のその精神力は素晴らしいと思っている」
「なんだ、突然告白か? 残念だが俺に同性を――」
「その軽口も、だ」
「……へぇ」
 台詞を潰された彼は少し不機嫌そうにため息をついた。
 君は、と男は続ける。
「妹の断末魔とやらも、あの日奪われた街とやらも、本当は――」
「それ以上は――」
「本当は、どうでもいいのだろう?」
 見えていないはずの彼の眼が、まっすぐに男を射抜いた。
 たっぷりと見据えた後、そのことで男が動じることは無いと理解したタイミングで、彼はモニタへと視線を戻す。そして、
「まあ、そうさ。お前のこの戦いと同じように、全てはどうでもいいんだ。いや、よかったんだ、と言うべきかな?」
「私に聞くな」
「でもなあ。こいつを目の前にして、ただの据え膳にして終わるのもなんかなあ、とな」
「なるほど」
 明らかに納得していない男を尻目に、彼は押し黙った。取りあえずのところ、話すべきことは無い、ということだ。
「それで、答えは?」
 だが、あえて訊く。
 妙な間をおいて「何が?」と言いたげに顔を戻す彼の頭頂部に、男はほんの少し逡巡をしてからクリップボードを叩き付けた。

 ・・・

 正直に言えば、他人のふんどしでもなんでもいい。だから、一度くらいは戦って――それから死にたかった。それだけのことだ。
 彼は逃げ続けてきた。
 急速に、渦を巻いて変わっていくこの世界から。一向に才能が見つからない自分から。じわじわと日常を奪っていく暴力たちから。そして今は、自らに課せられた明確なタイムリミット、から。
 逃げられる道がまだ残っていただけきっと幸せで、彼はそのことも理解していた。だからこそ、こっぱずかしい「理由」など、言葉にしたくなかったのだ。死から人を救うのは、いつだって「物語」だ。それは宗教であったり、信念であったり、どちらにせよそれらは、外から中から肉付けされた「物語」であるからこそ、救われるものだと、彼は信じている。
「誰だって、主人公になりたいやなあ……」
 お前もそうだろう? その問いかけに応えるモノは、いない。
 ジ・アンサー。唯一つの答え、そう名づけられた彼はただ冷ややかに佇んでいる。

DSC00836.jpg

 写真は、ジ・アンサー用に04-MARVE、突撃ライフルを改造した武装である。
 
DSC00848.jpgDSC00852.jpg

 機関部上にあった光学照準機は取り外され、銃口下のガンカメラに代替されている。
 新型のフラッシュハイダーが装備されているとはいえ、連続発射の閃光の中でどれほど機能するのかは不明瞭なところだが、運動性能に優れつつも照準精度に甘いAALIYAH型腕部と、特製弾倉により増加した装弾数を鑑みるに、「実効力のある撹乱・牽制武装」としての装備なのだろう。

 下部に装備されたブレードは、特殊鋼を使用しているもののまさしく「付け焼刃」であり、激しい使用には耐えない使い捨てとなっている。
 これは、一対一のネクスト戦を主目的とし、対近接「防御」用として搭載されているためで、3本という半端な固定ピンも、限度を超えた衝撃を受けた際にブレードとピンが砕け落ちて(或いはブレードごとパージして)銃本体を保護するための仕様である。

 本機の写真を見るに大分外装の汚れが目立つが、これはレイレナード社が崩壊した後、オーメルに製造が移管される際に移送される「はずであった」「行方不明の」在庫品であり、外装など劣化の影響が少ないものはブルーシートを掛けられたまま屋外放置されていたためである。
 部品状態で放置されていたものを組み上げ、かつての同社No.1リンクス「ベルリオーズ/シュープリス」の戦闘振りを鑑みた改造を施した……というのが事の顛末である。

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2009.08.19 Wed l The Answer l コメント (0) トラックバック (0) l top
『システム・オールグリーン。ジ・アンサー起動します』
 慣らしはやはり必要だろう、とのことで、繰り出したのは夜の砂漠だ。
 この辺りは特殊な地形をしており、周囲に嵐が通る時、中心部が丁度覆い隠された状態になる。コジマ粒子の通信阻害効果があれば、天然の秘密実験施設になるのだ。
 夜風に混じる砂の粒が、肌に痛い……気がする。気がする、というのは、AMSを伝ってくる感触であって、半ば気のせいだからだ。感度を絞っても礫が見えるような感覚が彼にまとわり付く。
「……面白いなこれ」
 呟きを無視して、男は連絡事項を告げる。
『プライマルアーマーの展開は、300m以上離れて頼む』
 そうしなければ、対コジマ処置が施されていないこの施設では、全員が被曝し汚染されてしまう。深呼吸一つを置いて、彼は、号令を放った。
「了解した。ジ・アンサー、通常モードで発進する」
 忠実にしたがった10mの魔神は、滑らかそのものの動作で格納庫から歩き出した。元々が超級兵器であるものの、組み上げ精度の差は明らかだった。
 既製品よりも遥かに静かな駆動音を引いて、迷彩色に塗られた滑走路に出る。その歩幅を伸ばしても、それは変わらない。艶めかしい月明かりに照らされたシルエットも、存分に美しかった。
 やがて、規定の距離に達する。
『戦闘モード起動承認』
「了解、戦闘モード起動」
 その声とともに、風の唸りとも付かぬ不可思議な音を立てて、メイン・ジェネレーターが起動した。歩行から、ブースト機動へ。一瞬後に、薄いグリーンに光る球状の盾が出現する。
 プラズマ・スラスターが放つ青白い炎は砂塵の中に長く尾を引いて、まるで
『流星みたいだな』
 縁起でもねえ、と、彼はやっと笑った。

DSC00921.jpg
 夜の砂漠は、彼の「視界」を通せば宇宙に見える。
 しっとりと落ち着いた夜の空気の中、自ら巻き上げた砂塵はエーテルの嵐で、前に漂う塵たちは数多の星だった。
「危ねえなあ、こりゃあ」
『どうした』
 男の問いには答えない。言えるものか。「綺麗が過ぎる」などと。
 不思議なほど、機体は彼に馴染んだ。体がもう自由にならなくなっていても、感覚だけはまだ昔のままで――いや、それ以上であって。
 ネクストの関節機構上、取ることが不可能な姿勢は、自動的に補正・制御される。その得も言われぬ気持ち悪さはあっても、あの日の彼よりもずっと、今の彼は自由であった。
 宙返りをして怒られ、限界ぎりぎりのブーストターンを決めて怒られ、シャドウボクシングのような、無意味な全速機動《クイックブースト》を取っては怒られ、予告無しのオーバード・ブーストを発動して怒られる。
 プロ・スケーターのような華麗な機動で地上に舞い戻った後、『いい加減にしたまえ』という無表情な一言を聞き、彼はようやっと予定ポイントに機体を停止させた。
「まあ、怒るなって……」
『お遊びもいいが仕事の後だ』
 実際のところ、彼を叱りはすれど男は驚嘆を禁じえなかった。
 彼のAMS適正は高い、と、検査結果から判断を下してはいたものの、まさかこれほどまでに自在に機体を操るとは想像し得なかった。
「で、ここで何をしろって?」
『その機体が持つ、最強の武器を起動するのさ』
 僅かに口の端を歪ませて、男はオペレーターに指示を出す。機体に設けられた電子ロックが、電信で解除された旨が彼の「視界」に流れた。
「……あさると・あーまー?」
『そうだ。プライマル・アーマーを前面に解放する。このアリーヤ・ジ・アンサーと、あの閃光《グリント》だけが持つ専用機構を取り付けた。その試験だ』
 見回せば、辺りには廃墟と化したビル群が半ば砂に埋もれるようにして建っている。ちらり、と脳裏を掠めるのは、あの日崩れ去ったアナトリアだった。コジマ粒子の、緑色の光。その後に残ったのは――
「了解した。よーく見てろ……ってな」
 放電する大気《グリーン・オーロラ》と、瓦礫の山だった。

 粉塵が収まって、オペレーションルームは静かな歓喜に包まれた。
 オーロラの光が収まると、今度は夜明けの光が魔神を照らしていく。真っ白な砂の海はまるで氷のようだった。まるで正反対の温度を告げる第一声だと言うのに。
 通信の音声をバックに、彼は少しだけ笑う。
「まったく、馬鹿極まりない」
『そうだな』
 その声と、ともに。

DSC00851.jpg


 いやー……おばかな話です。
 折角写真撮り直したから、ってんで、ちっとも考えないで書いた所為かどんどん馬鹿になってる気がしますね!
 というわけで、今回も機体設定のお話でもどうぞー。


DSC00914.jpg

 この機体、アリーヤ「ジ・アンサー」から外すことの出来ない追加機能――それが、この「アサルト・アーマー発動モード」である。
 発動モード、と銘打ってはいるものの、実際の稼動部位は胸部整波装置・サポーターの展開機構のみ、という非常に地味なものだが、ジェネレータ・ユニットに最も近く、出力も大きい胸部整波装置からの粒子放出を大幅に増やすことが出来るため、その効果は見た目よりも遥かに大きい。
 通常型のAALIYAHフレームと比較した正確なデータは存在しないが、同出力のAA搭載型オーバードブースターを使用した場合、膝部整波装置の出力強化もあいまって、おおよそ1.12倍程度の威力が望める、という試算がされている。


 DSC00890-ob.jpg
 AALIYAH/OB型から改修された、AA対応型オーバード・ブースターである。
 メインノズル1・サブノズル2の配置から、メイン3・サブ2、という強烈な変更を施された本機は、既製のAA対応型が軒並み非対応型に比して出力減となっていることを鑑みて、バイパスを電磁バルブで制御することで、出力を落とさずAAに対応する、というコンセプトの元に作成された。
 消費・出力・AA出力、ともに膨大、といういかにもAALIYAHらしい短距離瞬発型の機体である。
 AAは専用機構を持つホワイトグリントに範囲こそ及ばないものの、出力としては同等以上を誇ると見られ、元来最強のKP出力を誇るAALIYAH型ジェネレーターとの組み合わせとしては、これ以上ないものとなっている。

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画像 077

 本機の特徴の一つである「芸術性」を盛り込んだデザイン、それが最も強く出ている部分がここであろう。
 アンテナ型、という他に類を見ない整波装置は、ひとえに「男」の趣味趣好によるもので、兵器としては最悪の維持性能を誇る狂気のパーツである。
 左足には「雷」、右足には「管楽器」のイメージを盛り込み、「音色」を強くイメージさせる造形となっている。
 また整波性能も、コイル型との併用により、通常の積層板型に劣ることなく維持されている。

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2009.08.13 Thu l The Answer l コメント (0) トラックバック (0) l top
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 装置が無ければ盲目となる人間が、ネクストに乗る。
 ただそれだけを訊いたなら「どうやって?」或いは「無理だ」となるのが普通の反応だろう。拡張された視覚と火器管制装置(FCS)が齎すじりじりとした感覚、AMSの神経制御の反応速度。それらが全て高次元でまとまってこその魔神・ネクストである。
 だが、無いものは創れば良く、創れぬのなら代わりを用意すればよいだけで、更に、彼には奇妙な特殊能力があった。
「あんまり近づくなよ。暑い」
 そう言った彼は、男に背を向けたままで、かつ、多くの作業員がいる場である。一体どうやって男を認識したのか?
 兎も角、彼はこうして「何か」を以って物体への距離や外形を把握できるのだった。そのことを発見した時、男は、迷うことなくAALIYAHのノーマルヘッドパーツを機体から外し、脳内に残った設計図を引き出すと、それを電子情報に書き換えた。
「アローヘッド、ねえ」
「文字通りだろう」
「ブーメランなら帰還できそうなんだが、アローかよ」
 僅か一週間で手はずは整えられ、試作段階でスポイルされた頭部ユニット――AALIYHA/Hー09、アローヘッドがこの世のものとなった。
「で、何でまた試作品をわざわざ?」
「君の能力に賭けて見よう、とね」
 アローヘッド・タイプは、彼の能力のために存在するような頭部ユニットであった。まず、カメラは極端に少なく、基地内の近距離視界を確保するためだけ、と言って良い性能しか保持していない。代償として手に入れたものは、2系統3基のフェーズド・アレイ・レーダーだ。
「『それに、私の自信作なのでね』か?」
「そういうことだ」
 つくづく狂っている、と彼は笑った。何しろこのパーツは発想からして可笑しいのだ。
 近距離高速戦を庭とするAALIYAHに「心眼」を具象化する機能を盛り込んだパーツ、それがこのアローヘッドだ。フェイス部に2面・計512点、後頭部に1基・256点、照射する様に設けられたレーダーは、搭乗者が注意を向けた対象の挙動を立体的に捉え、再構築すると「空気感」としてフィードバックする。
 簡単に言えば、文字通り「見ずに」「肌身で感じる」よう作られているのだ。
「バカだよなー」
「馬鹿は君だ」
 最初からあたりはつけていたものの、最近よく理解したのが、この男は純粋に真面目が過ぎるということだ。それも、自分の正義に対してのみ。
「手前の設計に〝AALIYAH〟なんてつける奴に言われたくぁないな」
「ならば君は最高の機体には乗りたくない、のかね?」
「それが最高、だなんて誰が決めるんだよ」
 男は珍しく、にやり、としてただ一言を返した。

 はいはい、フロム脳の人です。今回からお話にあわせてちょっとずつ設定的なアレもやりたいとオモイマスよ。
 模型記事はまた別に上げたいと思います。
 今回のお題はオリジナルヘッドパーツ「AALIYAH-ALLOW・H」
 試作型ヘッドパーツのうちの一つ、という設定で登場させた機体です。


画像 042
 製造決定前に社内で争われたプロトタイプの一つである「アローヘッド(やじり型)」と呼ばれるタイプを採用している。複眼式カメラアイを装備する標準型に対し、こちらはCCDタイプのカメラを装甲の隙間に数少なに装備した特殊タイプである。


画像 034 画像 098
 後頭部の円盤状っパーツとフェイス部の内側には、多面照射のフェイズドアレイレーダーとコジマ粒子感知装置が搭載されており、これを独自のAMS制御ソフトと連結することにより、対象物の形状や位置を文字通り「肌身」で感じているかのようにフィードバックする。

 このパーツは、 カメラそのものの望遠性能・動体視力ともに標準タイプよりも優れぬものの、AMS統合体上で「心眼」の感覚を搭乗者にフィードバックする……腕部パーツで予定されていた武装固定用のサブアームと同じく、搭乗者の心的違和感を解消するに至らず採用されなかったものだが、そのスペックと新規開発された制御ソフトの情報をみるに、視力を大幅に失っている当機パイロットに合わせたカスタマイズともとれる。
 勘とも言うべき感覚で戦うセッティングなのだ。

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2009.08.06 Thu l The Answer l コメント (0) トラックバック (0) l top
画像 112
「過去ってのは美しいのか?」
 昼前、横で煙草を吸う彼に、男は突然そんなことを訊ねられた。
 視力矯正装置のついた、偏光グラスの奥にある瞳は覗き込めず、何を思ってかの発言かはわかりかねた。
 だが「過去は美しいか?」無意味に過ぎる質問だ。 

「さぁ?」
 突き放すように応えて、男は作業に戻った。やるべき事はまだまだ存在する。The Answer……彼らの「ひとつの回答」と名づけたこの青いネクスト――本体こそなんとか完成にこぎつけたものの、彼の思い描く完成形にはまだ遠い。
「こいつの青は、余程美しい……んだろう。この〝目〟じゃ高が知れてるが、雰囲気で判る」
「……君は一々与太が多いな」
「静謐にして美麗、荘厳と言っても良い」
 返答を無視しながら満足げに見上げる彼の目は、ろくにこの機体の外形も捉えていない筈だ。神経に接続された視力矯正装置は大分旧式のもので、一度完璧に失明した状態で使うには些か性能が足りない。そして、
「そういった感想を言うには些か思考力が足りない」
「うおっ?! いきなり酷いな」
 男が思う、最大の懸案事項がそれだった。彼は些か思考力が足りない……というよりも、万事が思いつきなのだ。この時代をここまで生き延びたのは単純に「運」と「勘」。そう言っても良いだろう。そんな彼が、海千山千飛び越えた場所に立つ、あの白銀の機体に勝ち得るのかどうか。
 ネットワーク上にアップロードされていた動画を見るに、彼らの敵であるホワイト・グリントは実に素直かつ堅実な戦い方をしていた――が、「教本通り」もレベルが違えば武器となり得るものだ。
「で、質問の答えは?」
「さあ。私は忙しいんでね。少し消えていてくれないか」
「光学迷彩を開発したってなら今すぐオペレーションルームで機能実験してやるが」
「確かにあの子の胸は立派だが、そろそろ適当にしてくれ」
 ふ、と笑って、彼は背を向けた。実につまらない、そんな顔をしているのだろう。見なくても判る。そして、手摺を離れてたところでふと屈み込み、何かを拾い上げた。
 それは、男が襟元につけていた小さなバッジだった。アーキテクト……ネクストを創出する人間に企業が贈る、ちっぽけな勲章だ。
「過去は、美しいか?」
 呟きながら、男のこめかみ辺りを狙ってそれを指で弾き飛ばす。バッジは狙いと寸分違わず命中して、キャットウォークの下へと落ち、見えなくなった。

 するべき事といえば、AMS制御――神経接続による思考操縦にいち早く慣れることと、戦闘、という場を理解することで、そのどちらも彼にとってたいしたことではなかった。シミュレーターと実機がどう違うかなど想像しか出来はしないし、しても恐らく意味はない。何より実機はまだ、格納庫で青筋を立てて歩き回るあの男の手の内で、動かしようが無い。
 やる事といえばそれ故に、横から茶々を入れて男を困らせるくらいしかなかったのだが、それすらも拒絶されたとなれば、あとは――
「寝るか!」
 この、いつ崩れてもおかしくない身体をなんとか維持することくらいだ。
 男も、そのことをよく分かっていたから、ある程度彼の軽口にも応える。そして、彼はそのことも知っている。

 ・・・

「やれやれ」
 そう呟いたところで、先ほど彼が当てた何がしかが、襟元のバッジであったことに気付いた。本当に厄介な奴だ――そう言うほか無い。
『過去ってのは、美しいのか?』
 「さてな」と、男はひとりごちる。
 彼はこの機体を――雰囲気を見て言ったのだろう。美しいものを創れる人間は、より多くの美しいものを眺めてきた人間だ。男にはその自負があったし、だからこそ、これほどまでに込み入ったデザインを自社に量産させるまでに至らせたのだ。
 妥協はあった。挫折もあった。しかし、AALIYAHは現状のネクストの中で最も美しいと、今も確信している。
 そして、気付く。ああそうか、と。
「なるほど、確かに美しい」
 理由などと言うものは何時も後付で、だからこそ複雑化する。
 ホワイト・グリントを打倒しようと思った理由? 技術者としての矜持? 個人がネクストを創り上げたという異常性への憧憬? そんなものはどうでもいいことだった。
「美しいから……だな」
 だから、壊す。美しいものは、この世にそれ程要らない。
 命も、造形も、この世界も、あの男の刹那さも――全ては、泥沼の人生に裏打ちされた瞬光の美しさ。

 一夜の輝きを己のものにするために、彼は再びPDAの画面に食い入る。

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2009.08.05 Wed l The Answer l コメント (0) トラックバック (0) l top
 どんな事由があれ、俺は死ぬ。
 その前に奪うよ。奪われてばかりじゃ面白くないから。

 敗者たちの吹き溜まりにして、最後の理想郷・ラインアーク。その唯一最大の戦力が、ホワイト・グリントである。
 固有名そのままに「白き閃光」として語られるそれは、リンクス共同管理機構カラードのランクこそ9位であるが、同組織はいまやオーメルの意向を伝えるのみの傀儡と化しており、そうである以上数字に意味など生まれない。その実力はランク1・オッツダルヴァ(=ステイシス)にも匹敵するとも言われており、まさしく倒す相手として不足は無い。
 なぜ、二代目となった筈の現在においても、オリジナルリンクス・ジョシュア=O=ブライエンの機体名を名乗っているのかは定かでないが、その名を深く、文字通り身に刻む彼らが固執するには、充分にすぎた――

『The Answer』


 クレイドルと呼ばれる浮遊都市が、清浄な空をゆっくりと死に向かわせつつ謳歌して、地上は砂に埋もれつつある。「システム」が倫理に従う必要が無くなって、それが世界を席巻したのなら、人類などこんなものだろう。誰もがそうだ。対岸の火事を眺めているうち、透明な風に紛れた毒にやられ、ばたりばたりと倒れていくのだ。そしてきっと、誰も居なくなる。
 その過程の、恐らく一番最初に起こったことだ。〝彼の故郷だった〟コロニー・アナトリアはもう喪い。「アナトリアの傭兵」そう呼ばれた彼らのリンクスと世界を二分した英雄、ジョシュアによって壊滅したのだ。
 何がどうなったのか? それを知る術を彼は持たなかった。ただ、幾度と無くプロパガンダに現れた「我々の英雄」と「彼らの英雄」がその夜激突した――そのことだけは知っている。
 その日の光景はよく憶えている。夜風が心地よい、危機なる一夜だった。避難勧告はとうに発令されていたものの、お偉いさんから順に収まるシェルターが全市民分用意されているはずも無い。彼は治験でようやっと身を立てる程度の男であった。自分の無能に後悔が無いといえば嘘である。だが、富めれど貧しけれど、長かれ短かれ、どうせ人はいずれ死ぬ。だったら一度くらいは。煙草でもくゆらしながら「見てみたい」と、そう思ったのだ。
 乗り捨てられた車の一台を拝借して、高台に出る。
 戦いははっきり言えば、天災みたいなものだ。他人の戦いなどどうでもいい。彼らにどんな理由があれ、あの傭兵がこの町を守り養っている、そう大儀を掲げていたとして、何も変わりはしない。企業が借金の取立てに襲撃してきたとして、他の誰が襲ってきたとして、隣人が暴れたとして、あのジョシュアがこの街を襲ってきたとして――物が壊れ人が死ぬことに変わりは無い。それは例えば、彼が生計を立てる治験で、出される薬の量と内容がほんの少し間違っていても、彼にとっては同じ事で。
 せめて、この目に収めるくらいはいいんじゃないだろうか? そう思った。
 地平線の彼方に美しく輝いたのは、緑基調のオーロラだった。生けるものに等しく徐な死を齎す、コジマ粒子の瞬き。爆発光がオレンジで、オーロラが緑。まるでイルミネーション・ショーのような光景が続く。
 今この瞬間この場所で息づくことは、死を確実に推し進めているのだろう。何せ猛毒粒子を盛大に撒き散らす魔神が、地平線のはるか手前で矛を交えているのだから。
 10メートルはあるであろう魔神たちは、戦闘機よりもずっと鋭角な軌道を描いて、時に離れ、時にぶつかりながら、まるで、
「蝶、か? ちと速すぎるか」
 笑った顔はすぐに引きつった。近づいている。燐光が、確実に。
 あの傭兵が押されているわけではない。しかし、確実に「彼らの」――ジョシュアはこのコロニーへと距離を縮めている。
 始めの恐怖はすぐに消えた。むしろ、牙を剥く、かの英雄の思考が気になった。
空に浮かぶ星を眺めながら、思う。何故だ? 英雄が一人で良いと言うなら、「我々の」を倒せば良いだけだろうに。
「なんでだ?」
 煙草の煙が、彼を現実から切り離していた。
 そして、戦いは唐突に終わる。


 ・・・


 治験の時のツテは思いのほか役に立った。ネクストの脊椎となるAMS制御系からフィードバックを受けた視覚補正処置を受けて、彼はまず光を取り戻した。
 そして、「長くて1年」。彼の世を眺めた代償としては高いだろうか?
「見ても居ない妹の断末魔が、脳に焼きついててな」
 あの日撃墜されたホワイト・グリントは都市の主要部に堕ち、シェルターの中の人間をその膨大なコジマ粒子で焼いた。「我々の」もまた、都市とともに姿を消した。何もかもが消えていった。彼だけが残った。
「戦いに必要なのは、ただ事務的な行動だ」
「そいつは残念」
 だから今度は、自分が奪う存在になろうか。彼岸に行く前に。それと、ちょっと質問をしてみたい。彼はそう思って、目の前の男の誘いに乗ったのだった。
 いまだ謎の多い……存在そのものが秘匿されている状態のORCAや、今まさに彼らが目の敵とするラインアークを渡り歩いたというこの男は、かつてレイレナードで主幹意匠を決定する立場にいたという。なのに今は、彼よりも純粋な「私怨」によって動いている。内容はただただ簡単で、「ホワイト・グリント」という世界唯一の存在に嫉妬している、それだけだ。
 レイレナードの亡霊と呼ばれるORCAすら抜け、肝要なAALIYAHのパーツだけはごっそりと持ち出して、それで尚ここで彼と話をしている――それだけの度量と技量があるのなら、もっといい生き筋もあっただろうに。なのに、彼と二人で、この蒼いネクストの前で腕組みをしている。
 装置越しのぼやけた視界の中で、彼は思う。

「馬鹿だなあ」
「まったくだ」

 そう、笑う。

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2009.08.02 Sun l The Answer l コメント (0) トラックバック (0) l top
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